はじめに
キャッシュレス決済は、もはや飲食店にとって必須の設備となりました。
2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%と政府目標である4割を達成し、2021年に経済産業省が行った調査によると、飲食店業界では全体の85.4%の店舗がキャッシュレス決済に対応しています。さらに飲食店におけるキャッシュレス決済比率は、2024年1月時点で過去最高の43.3%となっています。
この記事では、キャッシュレス決済端末を検討している飲食店経営者の方に向けて、導入の必要性から端末選び、運用まで網羅的に解説します。
なぜ飲食店にキャッシュレス決済が必要なのか
1. 顧客ニーズの変化
現在、多くの消費者がキャッシュレス決済を望んでいます。日本政策金融公庫の調査によると、「飲食店ではなるべくキャッシュレス決済で支払いたい」と考えている人は51.9%と全体の過半数を占めています。
年代別のキャッシュレス利用意向
- 60代女性:59.0%
- 20代男性・30代男性・50代女性:各56.0%
このように、若年層だけでなく幅広い年齢層でキャッシュレス決済が浸透していることがわかります。
2. 競合他店への対策
導入していない店舗は全体の14.6%とわずかです。つまり、8割以上の飲食店がすでにキャッシュレス決済を導入しており、対応していない店舗は競争において不利な立場に置かれる可能性があります。
3. インバウンド需要の取り込み
2025年4月の訪日外国人数は390万人を超え、前年同月比では28.5%増となり、過去最高を記録しました。海外からの観光客は現金よりもキャッシュレス決済を利用することが一般的であり、インバウンド対策として不可欠です。
飲食店がキャッシュレス決済を導入するメリット
1. 売上・客単価の向上
新規顧客の獲得
キャッシュレス決済を導入することで、現金の持ち合わせを気にせずにお店を利用できるようになります。「入ってみようかな」という気持ちが湧いたとしても、支払いに不安を感じれば、諦めて他のお店に行ってしまう可能性があります。そんなとき、キャッシュレス決済が使えれば安心して店舗を利用できます。
客単価アップ
キャッシュレス決済を導入することで、飲食店では「ついで注文」の増加が期待できます。手持ちの現金を心配することなく注文ができるため、「あと一品」を気軽に注文するお客さまもいるでしょう。
2. 業務効率化・人手不足解消
レジ業務の効率化
キャッシュレス決済を導入すると、レジ対応時間は35%も短縮し、現金の受け渡しの回数が減り、会計にかかる時間も短縮できます。現金の数え間違いも少なくなります。
現金管理コストの削減
キャッシュレス会計が増えると、閉店後のレジ締め作業が楽になります。現金を数え、売り上げと差異があればその原因を探らなければならないレジ締め作業は、時間も手間もかかります。
3. セキュリティ向上・防犯効果
キャッシュレス決済を採用することは、飲食店における重要な防犯対策の一つです。現金の大量保有は、残念ながら盗難や強盗といった犯罪のリスクを高める要因となります。
また、キャッシュレス決済は取引の追跡が容易で、不正な取引や不審な活動を容易に特定できます。
4. 衛生対策
飲食店にとって、キャッシュレス決済の導入は、日常の衛生管理にも貢献し、顧客に安心して飲食を楽しんでもらうために効果的です。現金の受け渡しを減らすことで、接触感染のリスクを軽減できます。
飲食店におけるキャッシュレス決済の種類
1. クレジットカード決済
特徴
- キャッシュレス決済の分子の内訳は、クレジットカードが82.9%(116.9兆円)と最も利用率が高い
- インバウンド需要にも強い
- 手数料は3~6%程度
メリット
- 利用者数が多く、幅広い顧客層に対応
- 高額決済にも対応可能
- 信頼性が高い
デメリット
- 決済手数料が比較的高い
- 専用端末が必要
2. QRコード決済
特徴
- QR/バーコード決済で、全体の68.4%の飲食店が導入
- PayPay、楽天ペイ、d払い、au PAYなど多様なサービス
メリット
- 導入コストが低い(専用端末不要の場合が多い)
- 手数料が比較的安い(1~3%程度)
- 若年層の利用率が高い
- プロモーション機能が充実
デメリット
- 対応する決済手段が限定的
- 利用者の端末に依存
3. 電子マネー決済
特徴
- 交通系電子マネー決済は33.2%、非交通系電子マネー決済は32.8%の飲食店が導入
- Suica、PASMO、楽天Edy、iD、QUICPayなど
メリット
- 決済スピードが速い
- 少額決済に適している
- 日常利用されているカードが多い
デメリット
- 専用端末が必要
- チャージ上限があるため高額決済には不向き
キャッシュレス決済端末の種類と特徴
1. モバイル決済端末
特徴
- スマートフォンやタブレットに接続して使用
- 持ち運び可能でテーブル会計にも対応
コスト
- 月額費用はかからず、初期費用が無料のもの多いです。手数料は約3.24%が一般的です
おすすめの店舗
- 初期投資を抑えたい個人店
- テーブル会計を行う店舗
- 小規模飲食店
2. オールインワン決済端末
特徴
- クレジットカード、電子マネー、QRコード決済をまとめて処理
- 据え置き型でレジカウンターに設置
コスト
- 月額費用がかかる場合が多い
- 手数料は比較的低め
おすすめの店舗
- 一定以上の決済ボリュームがある店舗
- 本格的なPOSシステムとの連携を希望する店舗
3. QR専用端末
特徴
- QRコード決済のみに対応
- 最も導入コストが低い
コスト
- 月額費用はかからず、初期費用が無料です。手数料は1~2%台ですが、対応できる決済手段が限られています
おすすめの店舗
- コストを最優先に考える店舗
- 若年層が多い立地の店舗
主要決済サービス比較表
サービス名 | 初期費用 | 月額費用 | 決済手数料 | 入金サイクル | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
Square | 端末代のみ | 0円 | 3.25%~ | 翌営業日 | 個人店におすすめ |
Airペイ | 0円 | 0円 | 3.24%~ | 月3回/6回 | 対応決済が豊富 |
STORES決済 | 0円 | 0円 | 1.98%~ | 最短翌々日 | 手数料が低い |
stera pack | 0円 | 0円 | 1.98%~ | 翌営業日 | 三井住友×GMO |
PayPay | 0円 | 0円 | 1.60%~ | 翌営業日 | 利用者数No.1 |
*手数料は条件により変動します
決済手数料の考え方
手数料率の目安
許容できる手数料率は導入店舗で5.0%、未導入店舗で6.0%となっている。手数料は3.0%台が理想で、4.0%台が限界、5.0%を超えると店舗側が現金回帰を起こし始めると見ることができる。
手数料負担の考え方
7割以上の導入店舗が売上を4%以上伸ばしており、キャッシュレス決済比率は30%から50%程度であるため、3%台の手数料はじゅうぶんに吸収できると考えているようだ。
月商500万円の店舗での手数料例
- キャッシュレス比率40%の場合:決済額200万円
- 手数料3%の場合:月6万円(年72万円)
- 手数料2%の場合:月4万円(年48万円)
飲食店におけるキャッシュレス決済のデメリットと対策
1. 決済手数料の負担
課題 月の売上が500万円の店舗だと、手数料は15万円、年間でいうと180万円という金額になる。利益率が低い飲食店だと、この手数料が確実に重荷となってくるだろう。
対策
- 手数料の低いサービスを選択
- キャッシュレス決済による売上向上効果で相殺
- 段階的導入で効果を確認
2. 入金サイクルの遅れ
課題 クレジットカードや一部の電子マネー決済では、入金が翌月になることが多く、現金決済に比べて現金の流れが遅いのです。
対策
- 入金の早いサービスを選択(翌営業日入金など)
- 資金繰り計画の見直し
- 複数サービスの併用でリスク分散
3. 通信環境への依存
課題
- Wi-Fi環境が不安定だと決済できない
- 停電時の対応が必要
対策
- 安定した通信環境の整備
- 4G/5G対応端末の選択
- 非常時の現金対応準備
4. 初期導入コスト
課題
- 端末代金や設定費用
- スタッフの教育コスト
対策
- 初期費用無料のサービスを選択
- 段階的な導入
- サービス提供会社のサポート活用
飲食店の業態別おすすめ決済方法
カフェ・軽食店
おすすめ決済
- QRコード決済(PayPay、d払い等)
- 交通系電子マネー
- クレジットカード
理由
- 客単価が低く、スピードが重視される
- 若年層の利用が多い
- テイクアウト需要に対応
ファミリーレストラン
おすすめ決済
- クレジットカード
- 電子マネー全般
- 主要QRコード決済
理由
- 幅広い年齢層が利用
- 家族での利用が多く、まとめ決済のニーズ
- 外国人観光客も利用
居酒屋・バー
おすすめ決済
- クレジットカード
- QRコード決済
- 電子マネー
理由
- 客単価が高い
- テーブル会計のニーズ
- 現金管理の負担軽減
高級レストラン
おすすめ決済
- クレジットカード
- タッチ決済対応電子マネー
理由
- 高額決済への対応
- スマートな会計演出
- インバウンド対応
導入手順と注意点
1. 導入前の準備
現状分析
- 客層の把握
- 客単価の確認
- 決済比率の想定
サービス選定
- 手数料の比較
- 対応決済手段の確認
- 入金サイクルの検討
- サポート体制の確認
2. 導入時の注意点
通信環境の確認
飲食店では、厨房機器がWi-Fiや他の通信機器に影響を与えることがあります。そのため、店内のレイアウトや、端末とルーターの配置によっては決済端末がうまく機能しない場合があるので注意が必要です。
スタッフ教育
- 操作方法の習得
- トラブル時の対応
- 顧客への案内方法
3. 運用開始後のポイント
効果測定
- 決済比率の推移
- 客単価の変化
- 顧客満足度の確認
継続的改善
- 手数料の見直し
- 新しい決済手段の検討
- オペレーションの最適化
2025年のキャッシュレス決済トレンド
1. セキュリティ強化
2025年3月でPINバイパス方式は使えなくなります。つまり、1万円を超えるカード決済においては、暗証番号入力が必須となるのです。
2. タッチ決済の普及
- Visa payWave、Mastercard contactless等
- スマートフォンのタッチ決済機能
- 衛生面でのメリット
3. 統合型POSシステムとの連携
- 在庫管理との連動
- 顧客データの活用
- 売上分析の高度化
よくある質問(FAQ)
Q1. 決済手数料は価格に転嫁してもよいですか?
決済事業者や決済代行会社に支払うべき手数料を、加盟店が消費者に負担させる「上乗せ請求」は、各提供事業者に設けられている規約違反です。手数料は店舗側の負担となります。
Q2. 現金のお客様とキャッシュレスのお客様で対応を変えてもよいですか?
規約上は問題ありませんが、顧客満足度の観点から同等のサービス提供が望ましいです。
Q3. 停電時にはどうすればよいですか?
- モバイル端末は数時間稼働可能
- 現金対応の準備も必要
- 災害時対応マニュアルの作成
Q4. 小規模店舗でも導入すべきですか?
初めてキャッシュレス決済を導入するならモバイル決済端末がおすすめです。初期費用0円で始められ、導入後の負担は決済手数料のみとシンプルな料金体系です。規模に関係なく導入メリットがあります。
まとめ
飲食店におけるキャッシュレス決済の導入は、もはや「やるかやらないか」ではなく「どのように最適化するか」の段階に入っています。
導入のポイント
- 顧客ニーズへの対応:過半数の消費者がキャッシュレス決済を希望
- 競争力の維持:85%以上の飲食店がすでに導入済み
- 業務効率化:レジ時間35%短縮、現金管理コスト削減
- 売上向上:新規顧客獲得、客単価アップが期待
- インバウンド対応:訪日外国人数の増加トレンド
成功のカギ
- 店舗の特性に合ったサービス選択
- 段階的な導入による効果検証
- スタッフ教育の徹底
- 継続的な改善と最適化
キャッシュレス決済は単なる決済手段の多様化ではなく、店舗運営の効率化と顧客満足度向上を実現する重要な投資です。初期費用無料のサービスも多いため、まずは小規模から始めて効果を確認しながら拡大していくことをおすすめします。
この記事が、あなたの飲食店のキャッシュレス決済導入の参考になれば幸いです。時代の変化に対応し、お客様により良いサービスを提供するための第一歩を踏み出しましょう。
この記事は2025年6月時点の情報に基づいて作成されています。最新の手数料や条件については、各決済サービスの公式サイトでご確認ください。